私は天使なんかじゃない
悪戯少女サリー
悪夢のような状況下でも人は意外にタフに生きていけるものらしい。
才能?
順応?
悪戯精神は全てを圧倒する。
例えそれがエイリアン相手でもあっても。
改めて鎧女フィーの恰好を見る。
鉄製の鎧。
指にはいくつかの指輪、そして首飾りをしてる。武器の類は持っていないようだ。
私の隣に立つソマーに小声で聞く。
「……魔法って本当にあるの?」
「……あるわけないでしょうよ」
魔法は存在しないらしい。
私はボルト101出たばかりだから、もしかしたら『今の外の人間は魔法が使えるようになった』のかと思ったけどそんな事はないらしい。
じゃあこの人は何?
もしかしたら別の世界から来たとかそんなノリ?
世の中意外性に満ちてるからそれはそれでありえる……わけないかー。さすがにそれはないだろ。
まあ、とりあえずはいいか。
「それでミスティ。ここで何してんの?」
「誘拐されました」
「そう。それは可哀想可哀想。ところで私の魔力剣知らない?」
「まりょくけん?」
何じゃそりゃ。
「んー、こっちには飛ばされてないのかも知らない。ジゼルの所為で面倒な展開になってるなぁ。まああんな脆弱なデイドラに剣は必要ないけど」
「……」
よく分からん。
よく分からんーっ!
とりあえず敵の敵というのが分かっただけでもいいかな。……必ずしも敵の敵が味方とは限らないけど。
ともかくジェネレーターとかいうのはフィーの魔法っぽいので吹っ飛んだ。
結果、バリアフィールドの類は消滅した。
閉じ込められていた女の子が出て来て私達を値踏みするように見ていた。
フィーは微笑した。
「もう心配ないわ」
その顔を見て少女は安堵する。
なるほど。
こういう時はとりあえず微笑して相手に安心感を与えた方がいいのか。勉強になります。
今後の人生に活かそう。
フィーは強い。
さらに機転が回るらしい。相手の心境に応じて接し方を使い分けてるのかもしれない。
人生は常に勉強。彼女の強さを勉強しないと。そうしないと今後ウェイストランドでは生きていけないだろうしパパを見つけるのも夢物語となるのは必至。
ちょっとだけ私はフィーに尊敬を抱いた。
ちょっとだけね。
「出してくれてありがとう。それで、もう脱出するの? まだ見てないところを回ってもいいわよ。私はあちこち知ってるから役に立つわよ」
少女はそう言って胸を張った。
少女は解放されるといきなり走り出して私達の前から姿を消した。
取り残された私達は顔を見合わせて沈黙。
それから後に付いて行く。
先ほどのコントロールルームに戻ると、ロックされて閉ざされていた扉が開いていた。そこでサリーが胸を張っている。
あの子が開けたの?
「言ったでしょ、私は役に立つって」
「ど、どうやって開けたの?」
上擦った声で私は聞き返した。
何気に私って奴は全然良いところを見せれてないなぁ。
エイリアンに何度も何度もショックバトンで叩きのめされるし全然活躍の場面はない。
うー、今後の活躍にご期待ください(泣)。
さて。
「壁の中に線とかがあってどれとどれを繋げたらドアが動くのかが分かったのよ。ちょっと前の話」
「……」
「壁の中には色々なものがあるの。でもあなたは大きいから見れないわね。大丈夫、私だったら届くから。任せといてっ!」
「……お願いします」
負けた。
負けました、完全にっ!
私だけこの場でただ1人のお荷物に決定ですかそうですか。
うー、立場ないなぁ。
「さあ、まずはエンジンルームへ。そしたら他の場所も案内する。もっと役に立つんだからっ!」
頼りにしてます。
それにしてもまったく頼りにならない主人公ってどうよ?
何気に現在私は不殺です。
「みんな、付いて来てっ!」
「どうしてそんなに詳しいのさ、お嬢ちゃん」
ソマーは怪訝そうに問い掛ける。
「私はサリーよ。お嬢ちゃんじゃないわ、おばさん」
「おば……っ!」
「私はずっとここにいたから詳しいの」
「ずっと?」
どの程度前からだろ。
少女は自分の身の上を話し始めた。考えてみればこの場にいる全員はまったく素性不明。
今は全員が自己紹介してる場合じゃないけど、いつかは自己紹介しなきゃね。
円滑に展開を進めるためにも。
「私は時々部屋を抜け出して探検してたの。色々な所へ行ったわ。楽しいけど、結局奴らに捕まって連れ戻されちゃった」
「1人なの? 家族は?」
「家族はもういないわ。……ママとパパは死んだの。私がここに来る前に。爆弾が一杯落ちたのは覚えてる? そのすぐ後に両親は死んじゃった」
『……』
私とソマーは顔を見合わせた。
ウェイストランドという単語を知っているわけだから私とソマーはおそらく同年代であり同時代の人間。しかしサリーはそうじゃない。
全面核戦争に突入する前後の女の子だ。
「それから妹と私がここに連れて来られて……でも、ずっと妹には会ってないわ」
『……』
掛けるべき言葉が見つからない。
サリーは時々部屋を抜け出していると言っていたけど、もしかしたら妹を探す為なのかもしれない。だけど少女は私よりも強いようだ。
追憶を振り切るように元気一杯に叫んだ。
「さあ、エンジンルームに行きましょうっ!」
「何があるの?」
「そこから色々な場所に行けるの。それから、もっと上の場所にはボスがいるのよ。一回か二回しか見た事ないけど、とにかく酷い奴よ」
「ふぅん」
「そいつを殺したら良いんじゃないかしら」
「……」
結構さらりとすごい事を言う子ね。
これが核戦争前後の時代を生きた女の子のバイタリティ?
侮れん。
さあ、出発よー……と思った矢先にソマーがそれを制した。
何だろ。
「悪いけど私は別行動を取るわよ」
「ソマー? 何故?」
突然の言葉に私は慌てる。
戦力が減る。
分散するべきではないと思う。それはソマーも理解しているはずだ。なのに何故?
私はその事を口にした。
「分散するべきじゃないわ」
「あのね。結果は見えてるわ。みんなでワーって突っ込んで、みんな同時にぶっ殺されるのよ」
「……」
確かに。
確かにそれも一利あるだろう。だけどわざわざ少ない人数をさらに少なくする必要はないと思う。
彼女は続ける。
「悪いけど、私はちょっと遅れて着いて行くわ。どのみち後ろを見張る人が必要でしょ。すぐに追いつくからそんなにびびらないで。じゃあね」
そう言って彼女はこの場から姿を消す。
戦力ダウンだ。
さらに。
「私もここでお別れするわ。地味な戦い方は私の性に合わない。それに色々と実験したいし」
「実験?」
問い返す。何の実験だろ。?
「何の実験?」
「多分私にはオブリビオンの門を開く能力はないと思うけど一応は試してみたいわけよ。いつまでもこんな妙な世界にいたくないしね」
「はっ?」
「ここはふざけた世界みたいだから、もしかしたらシェオゴラスの干渉が関係ある世界なのかもしれない。狂気は嫌いなのよ、とっとと帰りたい」
「はっ?」
意味分からん。
意味分からんーっ!
オブリビオンの門って何なんだーっ!
まあ、聞くだけ無駄だけどね。聞けば教えてくれるかもしれないけど完全に私の常識外だろうし聞いても理解出来そうもない。
問題なのは戦力だ。
ソマーの離脱も痛いけどフィーの離脱も痛い。ソマーは後で合流するっぽいけどフィーはどうか分からない。というかいなくなられると困るっ!
あの魔法みたいな妙な能力はエイリアンをモノともしない。つまり使える。
「バイ」
「ちょっ!」
声を掛けるものの彼女は歩き去る。後ろを見ずに手を振りながら。
これでここにいるのは私とサリーだけだ。
……。
……大丈夫か、私?
何気に死亡フラグ立ってるんじゃないの?
こういう状況下で『別々に行動しようっ!』という映画によくありがちな状況って現実的にはまずいだろ。
戦力の分散は各個撃破に繋がり易い。
あー、これ完全にやばいじゃん。
私死ぬかも。
「19年か。もっと生きたかった」
「ミスティ、私に任せなさいって。とりあえず誘拐した人達の装備品の一時保管室がそこにあるの。そこで武器を入手しましょ」
「……」
どっちが年上か分からんなぁ。
少しは私も逞しくならんと。
パパを探してボルト101の外を出たけど能力不足な私。ボルト101の脱走が成功した最大の要因は私同様にあの連中がモヤシっ子だったからだ。
エイリアン達はさらに貧弱なんだろうけど私の戦闘経験が不足しているから対抗出来ない。
戦闘センスは生まれつきのもの。
それが私にあるかは知らないけど戦いの中で色々と吸収して、学ぶ必要がある。
パパを探す為に。
そしてそれ以上にここから生きて脱出する為に。
私は強くならんと。
私は強く……。
サリーの言う通り誘拐した人間が身につけていた物の一時保管室があった。
ただ、ここはあくまで一時保管の場であり貨物室に全て送られるらしい。
意味?
知らん。
エイリアンの言語は完全に意味不明だからね。
サリーは色々と覗き見ているから事情を知っているだけであってエイリアンの思想まで知っているわけではない。
私はここで自分のボルト101のスーツを回収、着込む。そしてPIPBOY3000を腕に装着した。
これで少しは様になったかな。
武器はアサルトライフルを手に入れた。弾丸もある。だけど私が持っていた10mmピストルはなかった。誘拐された際に私は寝ていた、つまり銃は寝る
のに邪魔だから側には置いていたけど帯びてはいなかった。多分スプリングベールの廃墟に置き去りなのだろう。
まあいい。
いずれにしても武器としてはそれなりの物を手にする事が出来た。
グレネードも3個ほど手に入れた。
向かう先はエンジンコア。
そこから色々な場所に行けるらしい。もしも私達がここから脱出するのであればそこを制圧する必要があるだろう。制圧すればエイリアンの動きを
制限し、分断する事が出来る。脱出するにしても生半可では行かないだろう。相手があっさり逃がしてくれるとは限らない。
ある程度の制圧は必要となる。
もちろん私達の人数ではそれは出来ないだろうけど、他に捕虜にされている人達を助け出せば何とかなるかもしれない。
武器の類とかは貨物室に大量にあるとサリーは言ってるし。
要は人数。
人数さえ得ればこの宇宙船を完全制圧……とまでは行かないかもしれないけど、部分的に制圧は出来るだろう。
まずは仲間を得ないとね。
それまでは隠密に行動しないと行けない。
ただ問題がある。
エンジンコアに向かう為にはスチームワークスと呼ばれる蒸気が所々から吹き出る機関部を通り抜ける必要がある。蒸気は私とサリーの姿を隠す
けどエイリアンの姿も隠すだろう。私達は音を消し、息を殺し、隠密に進んで行く。
するとサリーが私を止めた。
「ここで少しだけ止まって。奴らがもっと来るわよ」
「本当?」
「ええ」
この子、目が特別良いのかな?
私には見えない。
「きっと奴らは私達を探してるわ」
「でしょうね」
脱走。
爆発。
それに鎧娘フィーの大暴れでエイリアンは結構死んでる。相手側も本気で叩き潰そうとしているはずだ。捕まったら独房に戻されるという甘い展開は
もうとっくに通り過ぎたと考えた方がいいだろう。
殺らなければ殺られる。
今はそういう展開。
「私は通気口を通って避けられるけど、ミスティは無理よね。移動する方法を考えないと。なにか良い案はない?」
「うーん」
諸葛孔明も裸足で逃げ出すほどの軍略を私は考えないといけない。戦闘能力が不足しているのであれば頭で補わないと。
天才軍師として何か案を絞り出さないとね。
問題は私達を捜索しているエイリアンの部隊だ。やり過ごしてもいずれは見つかるだろう。
ここは宇宙船、閉鎖空間だ。
逃げ場はない。
それに相手の母船なわけだから船内には向うの方が精通している。
ならば捜索隊を叩くしかない。
「サリー、グレネード扱える?」
「何するの?」
「私が注意を引き付けるから、サリーは通気口を通って相手の後ろに回りこんで。それから花火大会よ」
「ええっ! ホントにっ!」
「本当よ」
「グレネードを使っていいの? すごぉいっ! すぐ奴らの後ろに回るわねっ!」
「頼むわね」
「おっけぇー☆」
グレネードを渡してサリーと分かれて進む。
物陰に隠れながら進む。物陰からそーっと捜索隊の姿を見る。エイリアンが3体いる。数としてはそれほど多くはない。10はいると思ってた。
数は少ない。
今の私はアサルトライフルを装備してるから制圧は出来るだろうけど……相手も武器を持ってる。
蒼い光を放つエイリアンのビーム兵器だ。
監獄エリアでそれを拾ったけど使い方が分からなかったから私はそれを帯びていない。使い方の分からない銃はただの鈍器だし。
「何あれ?」
3体のエイリアンはまだ私には気付いていない。
数はさほど問題ではない。
問題はエイリアン達の体が光で屈折しているように見える。見えない何かを纏っているような、そんな感じだ。
まあいい。
バッ。
私は物陰から身を乗り出してアサルトライフルを一斉掃射する。
バリバリバリ。
全ての弾丸はエイリアン達に襲い掛かるっ!
「ウニャニャニャっ! ニャーっ!」
「うわっ!」
奇妙な叫び声と同時にエイリアンが撃ち返してくるっ!
私は物陰に身を隠した。
ソマーの打撃で簡単に死んだエイリアンが銃撃を物ともしない。銃が効かない……いや、もしかしたらあいつらバリアの類でも纏ってる?
ユラユラとした光を纏っている=バリアなのか。
卑怯だインチキだ反則だーっ!
蒼いビームは物陰に隠れている私には届かないけど対抗策がまるでない。
……。
……普通の状況ならね。
だけど今の私はただの囮、相手の注意を引く役目を帯びている。
そして。
「どっかぁーんっ!」
サリーの声が響いた。
同時に爆発音。
そーっと物陰から顔だけ覗かせる。エイリアンは吹っ飛んでいた。
ふぅん。
バリアは完璧ではないらしい。
アサルトライフルでは威力不足なのかもしれないけどグレネードの爆発力なら倒せるみたいだ。相手の能力が分かるのは戦闘に好都合。
エイリアンは肉体的には脆弱。
ハイテクを保有しているしそれは多分今の人間の文明を遥かに凌駕しているけど、殺せない事はない。
充分な銃火器さえあれば殺せる。
武器。
人数。
ある程度の数さえ揃えばこれは勝てるかもしれない。
「よしっ!」
パン。
両手で頬を叩く。
これは良い意味でのレベルアップの為の特設ステージと考えよう。パパを探す為の能力アップの為の戦いとして受け止めよう。
そしてそれが全て達成出来た時、私は地球を救った女にもなれるわけだ。
さて。
「進もうかな」